文学部卒・元書店員みてみてのおすすめ小説

書評

ネット社会なこともあってか、社会人の約40%は月1冊も本を読まない時代。ということは2人に1人しか読書習慣がないんです。

で、「読書をしている」という人でも聞くとビジネス書が多かったり…

ビジネス書もいいんだけど・・・小説、読みませんか?

 

 

わたしは文学部卒ということもあり、答えやノウハウが書いてあるビジネス書よりも人間の在り方や考え方に触れられる小説が大好きなんですよね。(出産後はあまり読めなくなっちゃったけど)

 

そこで今回は文学部卒、元書店員のわたしがこれまでに読んだ600冊の小説からオススメの小説を紹介していきます。

 

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これぞエンタテインメント! 「有頂天家族シリーズ」

現代の京都を舞台に狸一族と天狗と半天狗がおりなす阿呆で天晴なファンタジー。

「夜は短し歩けよ乙女」の森見登美彦による独特のワールド感で、狸を鍋にして食っちゃいたい弁天様と、その弁天に恋する狸4兄弟の三男・矢三郎を中心とした下鴨一族のドタバタハートフルコメディ。

 

どの登場人物も個性的で魅力がたっぷりなんだけど、わたしは同じ母として狸4兄弟の母・桃仙の深い愛とか強さにすごく惹かれました。

 

当初から3部作として構想されている作品で、現在2作目まで刊行。早く完結作が読みたい!

 

POINT

  • 愛すべき毛玉たちの家族愛
  • 現実と空想の境界線がないファンタジー感
  • 笑いあり涙ありの爽快感ある読み心地

 

 

小説家の圧倒的表現力による被災体験レポ 「暗い夜、星を数えて」

小説家の彩瀬まるさんが、友人を訪ねた旅行先で東日本大震災に被災した経験をまとめた迫真のルポ。

 

のちの取材をもとに書かれたノンフィクションとは違い、実際に身をもって体験された事実が克明に表現されていて、それが五感に迫る。文章を読んでいて動悸がしたのは初めてだった。

被災者なのに住人ではないという複雑な立場からの葛藤や想いが綴られていて、それが非被災者である西日本に住むわたしと災害の橋渡しをしてくれた作品。

 

初作の準備中に被災されたということでこれがデビュー作になってしまったんだけど、著者の彩瀬まるさんは他の小説も心情や情景描写が丁寧でおすすめです。

イチ押し作家!彩瀬まるさんの魅力がわかるオススメ本3冊を選んだからとにかく読んでみてほしい。
祝!直木賞候補!彩瀬まるさんのおすすめ本をまとめました。アラサー主婦、同世代にこんな素敵な作家さんがいてうれしいです。

 

POINT

  • 文章のプロによる「あの日」の記憶
  • 被災地への共感と被災地支援への考え方が深まる
  • 災害のノンフィクションだけど凄惨な描写はないぶん読みやすい

 

 

事件が起きないアガサ・クリスティ 「春にして君を離れ」

アガサ・クリスティなのに人も死なない・事件も起きないミステリ小説。

「そして誰もいなくなった」や「オリエント急行殺人事件」のような推理小説と作風が違いすぎたので当初は別のペンネームで出版されていたほど。

 

旅行先から戻るために乗った列車が事故で途中停車し、その間に人生を振り返る一人の主婦の人生がみるみる色を変えていく様に一種の恐怖すら感じた。

原書の出版は1944年。日本では戦争真っただ中の頃に書かれた小説なのに21世紀に読んでもなお人間社会の暗闇と人間の本質をついていて、読後はちょっと人間不信になれる一冊。

 

POINT

  • 「知らぬが仏」の意味を肌で感じられる
  • アガサ・クリスティの多彩さを知れる
  • 人は簡単には変われない現実を突きつけられる

 

 

小説家の白血病闘病記 「無菌病棟より愛をこめて」

ガッキー主演の映画「ささらさや」の原作者、加納朋子さんが2010年に白血病を宣告されたときの闘病記。

  • 夫で作家の貫井徳郎さんのサポート
  • 家族や親族を巻き込んだ闘病生活
  • 弟さんからの骨髄移植
  • 退院後の生活

 

など、重くなりがちな闘病記をハートフルな筆致で綴られているので読みやすい一方で、文章化できなかった葛藤や絶望や苦悩もしっかりと伝わってくる。

 

ある出来事がきっかけでこの闘病記は唐突な終わりを迎えるんだけど、それも含めて命やいま生きていることについてとても考えさせられた一冊。

 

POINT

  • 白血病の闘病記としては読みやすい。
  • 加納さんと貫井さんの人柄が伝わる。
  • いま生きてることのありがたさをとても考えさせられる。

 

 

知的でゴージャスな漂流記 「ミステリアス・アイランド 」

「十五少年漂流記」を書いたヴェルヌによる、大人の漂流記。

  • 一粒の小麦
  • 飼い犬がしていた首輪
  • マッチ一本
  • 懐中時計2つ

 

と、着の身着のままで無人島に漂流したはずなのに、

  • 天文学で無人島の位置を測定
  • 測量術で山の高さを割り出す
  • 爆薬を作る
  • 粘土からレンガを作って炉を製造
  • 石鹸を作って清潔に
  • 水力エレベーターも作る

 

科学技術を駆使して漂流生活をエンジョイしちゃうクレイジーな小説。人類が科学を発展させ、今の文明を築いてきた過程を追体験している感覚になる理系歓喜の一冊。

ミステリアス・アイランドとしては絶版なので今読める児童向けの完訳版がオススメです。

 

POINT

  • ニトログリセリンの作り方がわかる
  • 生きる力・科学の力を身近に感じられる
  • 「海底二万里」も読みたくなる

 

 

アラサー同世代の女性小説家と言えば綿矢りさ 「ひらいて」

「かってに震えてろ」「かわいそうだね?」の笑える衝動展開の作品に続いて出た、全然笑えないほうの衝動展開が魅力の一冊。

  • 毎朝開く聖書の中に救いの言葉を探している愛
  • 求められることに絶望したたとえ
  • 救いを求める人を愛さずにはいられない美雪

 

「救済」をテーマに高校生3人の絶妙な関係性の変化していくストーリーだけど、マジ斜め上すぎる展開で、でもそれがいっそう思春期の危うさや衝動を引き立たせている一冊。

 

POINT

  • 一筋縄ではいかない恋愛模様
  • 「救い」「愛」って何だろう?と考えさせられる
  • やや過激系(グロ系ではない)

 

 

戦う女たちの、戦いの記録と歴史 「カラーパープル」

人種差別が根強く残る南部アメリカ。白人にも夫にも虐げられる黒人女性・セリーを主人公に女たちの戦いと人類の団結を描いた傑作。

セリーから妹に書かれたものをはじめ、物語はすべて「手紙」の形式で進む書簡体小説。つまりぜんぶ「主観」で語られていて、(行間を読むならぬ)手紙と手紙の間からもたくさんのことが伝わってくる。

 

男女の平等ってすごく難しいことだけど、まだまだ希望をもらえる心震える一冊。

小説が苦手な人な、スピルバーグ監督&ウーピー・ゴールドバーグのデビュー作である映画版もオススメです。

POINT

  • 差別にあう女たちの戦いの記録
  • 女たちの団結の記録
  • 男に「勝つ」ためにではなく「手と手を取り合うため」の戦いの記録

 

 

血のにおいと土埃の味がする4D体験 「ヘヴン 」

ヘヴン 書影

いじめられっ子で斜視の”僕”のことを仲間だというコジマ。そしていじめっ子・百瀬の語る正義。

中学生のいじめを通して正義についての哲学問答が繰り広げられるけど、百瀬の詭弁を論破できないからこそのモヤモヤがもどかしい。

 

斜視の主人公が受けるいじめからは、泥の臭い・血の味・汗と涙の感触といった具合に視覚以外の描写が胸に迫ってくる。そこからのラストシーンのコントラストが必見で、あまりの美しさに涙が止まらなかった。

 

POINT

  • 正義って何だろう?
  • 本当の「強さ」って何だろう?
  • 五感で「感じる」表現が魅力

 

 

このSF小説がどうかフィクションでありますようにと願わずにはいられない 「一九八四年」

1948年に書かれた未来小説。核戦争ののち政府によって監視・統制されたオセアニアを舞台に、自由と人間の意義について問うた名作。

 

監視によってプライバシーを奪われ、簡略化された言語に思考は奪われ、歴史は改ざんされていく。

はたしてこの未来小説は「SFフィクション」と言い切れるのか?という疑念が胸をよぎった時、怖くて怖くて震えた。

 

単語や構文がそぎ落とされた「ニュースピーク」を強要されるという設定は、平易で読みやすい文章が求められるWebライターとしてすごくハッとさせられることが多かった。

 

自由とは、二足す二が四と言えることである

 

POINT

  • 約70年前に書かれた未来小説なのに今でも読めるし通用する
  • 自由とは・思考とは何かを考えさせられる
  • いま見て知っているものははたして真実か?という問い

 

 

二次創作の傑作! 「贋作 『坊ちゃん』殺人事件」

夏目漱石による説明不要の痛快エンタメ小説「坊ちゃん」。それが実は殺人事件だったら・・・?という傑作パスティーシュ(パロディ)。

原作とともに2つで1つの壮大なミステリ大作だったのでは?という気すらさせるほどの完成度で、これ読んだ後で坊ちゃんを普通に読めなくなった。

 

ミステリに仕上げた柳広司の手腕も見事だけど、ここまで丁寧に原作を読み込み解釈したからこそのパスティーシュだと思うと、「坊ちゃん」が読み手に与えてる解釈(妄想)の余地がすごすぎてこれぞ文学!という感じでとても楽しい。

文学部的には「ここのこの表現、〇〇の隠喩では!?」みたいなのが大好物・・・!

 

POINT

  • 名作古典の名作二次創作
  • というかもうどっちがメインストーリーなのかもわからなくなるほどの完成度
  • 文学って面白い!

 

 

星の王子様が見ていたもうひとつの地球 「人間の土地」

「星の王子さま」を書いたサン=テグジュペリ。実は戦闘機のパイロットだったんですよね。

第二次世界大戦中の任務で返らぬ人となるまで、GPSもなく気象予報技術も未熟だった時代に命がけで空を飛んでいました。

  • アンデス山脈に不時着し7日間の遭難から帰還した同僚
  • 戦禍の空に散っていった仲間の命
  • サンテックス本人のサハラ砂漠遭難体験

 

極限状態を体験したからこそ紡ぎだされる人間哲学と、生と死。

飛行機で簡単に海外旅行に行けるようになった現代のわたしたちにはもう見ることのできない大地の美しさと、命の息吹を堪能できる一冊。

愛するということは、お互いに顔を見合うことではなくて、一緒に同じ方向を見ることだと

ーP.243 第8章 人間

結婚や恋愛の格言としてよく取り上げられる名文は実はこの小説のもの。どういう場面で、どういう意味で出てきた格言なのかを感じてほしい。

 

POINT

  • 「星の王子さま」の原点を垣間見れる
  • 堀口大學の硬派で上品な日本語訳と、宮崎駿の解説もセットで素晴らしい
  • LCCで簡単に飛行機に乗れるようになった時代のありがたさを知るべき

 

 

静謐な映画を見ているかのような読書体験 「人質の朗読会」

遠い異国でテロリストにとらえられた日本人観光客。全員死亡の結末を迎えた事件であったが、彼らは夜な夜な人生を振り返る朗読会をしていた…という体裁でまとめられた連作短編集。

 

朗読会の録音がラジオ放送で流されたという場面設定もまた、海の向こうの出来事で小説の中のお話という絶妙な距離感を演出していて、現実との境目がぼやけて夢見心地な読後体験。

読んだ後にコンソメスープが飲みたくなる一冊です。

 

POINT

  • 小説の場面設定に合わせて毎晩一話ずつの読書がオススメ
  • 海外小説のような読み心地
  • 短いページに込められた人生の一コマを堪能

 

 

諦める事。そして前を向いて歩くこと 「スローターハウス5」

スローターハウス5書影

街の85%が壊滅したという第二次世界大戦末期のドイツ・ドレスデン。捕虜としてとらえられていたドレスデンでの爆撃を生き延びた作者自身の体験をSFとしてまとめた自伝的小説。

 

タイムリープ(タイムトラベル)、火星人と突飛な設定と展開でどれだけ味付けしても戻れない場所と時間・還ってこない命を嘆き悲しむやりきれなさが色濃くにじんでいてとても悲しい。

そして何より、それほどの気持ちを”So it goes”(そういうものだ)と何度も何度も言い聞かせる主人公に胸が痛くなった。

 

神よ願わくばわたしに変えることのできない物事を受け入れる落ち着きと、変えることのできる物事を変える勇気と、その違いを常に見分ける知恵とをさずけたまえ

 

作中で引用された「ニーバーの祈り」。
わたしにできるもの。それは何だろうか?ということをとても考えさせられた一冊。

 

POINT

  • アドラーの「嫌われる勇気」にも出てくるニーバーの祈り
  • 日本人以外の「戦争体験」と「平和への祈り」
  • 過ぎた時間は戻せないという摂理

 

 

ある一人の女の自立と人生 「その名にちなんで」

その名にちなんで書影

ベンガル人の両親から生まれたアメリカ人なのにロシアの作家の名前を付けられた「ゴーゴリ」。アイデンティティに悩んだ彼は改名をするが・・・というタイトル通り「名前」にちなんだ物語。

 

息子ゴーゴリの成長とアイデンティティの獲得を軸にしながらも、わたしがこの小説で一番惹かれたのは母親のアシマ。

親が決めた相手と結婚し、故郷から遠く離れたアメリカでの新婚生活。

慣れない土地・文化の中で淡々と毎日を積み重ねて精神的・社会的に自立していくアシマの姿に勇気づけられたから、転勤族の妻としての今のわたしがいます。

学生時代にこの小説を読んでなかったら転勤族の夫と結婚を決めてたか自信ない。それくらい感銘を受けた小説。

 

「親族の訃報を知らせる深夜の電話はいつしか時差を考慮した電話になり、そのうち何かのついでに添えられるようになった」とか、「人生ってそういうものだよね」っていう割り切りとか、エピソードや物事が本当に丁寧。

ラヒリの文章はすごく淡々としていて、その距離感には正直好みが分かれるところだと思うけど、わたしはそういう優しさが大好きです。

 

小説は長くてちょっと・・って方には映画版をおすすめ。

小説とちょっと違って家族の絆や親から子への愛情にフォーカスしてあるけどすごく染み入る名作になってる。Amazonプライムビデオなら199円です、ぜひ。

 

 

まとめ:小説を読んで自分の感性を磨こう

小説って答えがないから、どう読んでも自分のためになるのがいいところ。

  • どうして感動したのか
  • どうしてイライラしたのか
  • どうしてこの登場人物が嫌いなのか
  • どうしてこの登場人物に惹かれたのか

 

ということが読んだ人の数だけ気づきがあって、感じ考えた分だけ自分の価値観が立体的になるんですよね。

ここで挙げた14冊はわたしの個人的なおすすめだけど、手に取ったあなたにとっても「出会い」の一冊になるきっかけになればうれしいです。

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